秀直です
インサイドの浅瀬から頭が見えている岩場を抜けながらゆっくりとそして恐る恐るパドルアウトを開始した。
深い森からたっぷり流れ出る葉緑素に包まれた海水は海底が岩や石の地形からか、グリーンとブルーが入り混じる何とも言えない幻想的な色を醸し出している。
クロロフィルブルーとでも言えばいいのだろうか。
幻のブレイクはピークが一か所だ。
10人も入っていれば満員御礼の邪魔者扱いになってしまう。
緊張と不安を抱きながらもピークへ辿り着くとそこには4人のローカル達がリラックスした笑顔で私達を迎えてくれた。
何故か岸辺にいる数名のローカルはパドルアウトしてこない。
サーフアウトした後に私達はその理由を知って涙することになる。
セットはダブルだ。
岸から眺めていた時よりはるかにデカい壁が目の前にそそり立つ。
セットが来ると続けて3本が連続してブレイクする。
このパターンで順序良くダウン・ザ・ラインを繰り返すのがルーティンのようだ。
笑顔で軽々と乗っていくローカルサーファー達は心底楽しそう。
何という光景だろう。
海で波に乗っているのに彼らの姿はまるで森の中を飛び駆け巡る野鳥だ。
そうだ!ここは火の鳥のモデルになる鳥たちが住む深い森の中。
彼らはやはり共存している。
お互いを認め合い、尊重し合い、助け合い、守り合い、肩を寄せ合い毎日会話して森と海の調和を保っているんだ。
3本の波が過ぎ去り野鳥のごとくダウン・ザ・ラインしていったサーファーが沖へと戻ってくる。
Bueno!
満面の笑みでそう言いながら私に向かって顎が上に動いた。
ということは、次行けの合図だ。
ヤバい、彼らが軽々乗るこの波のサイズは日本ではそうそうお目にかかることのない経験値が少ないスペシャルコンディション。
しかしこの絶好の機会を逃すわけにはいかない。
一瞬腰が引けるのを自覚せずにはいられなかった。
テイクオフを躊躇し失敗すれば岩に激突し板が折れ体もバラバラになるかもしれないが、もうそれどころではない!
うねりが盛り上がってきている。
1本目をローカルがこちらにウィンクをしながら乗っていく。
次だ!
この1本さえ乗ればあとはもうどうなってもいい。
ここまで来れたことに協力してくれた全ての人達に感謝を込めて渾身のパドル!
板が走り始めている感覚が全身に伝わる。
徐々に長いスロープが形成され波のピークはついに私の背中に襲い掛かった。
これまでにない猛スピードで板が滑り出した。
テイクオフ!(スタンドアップ)した直後、足の裏から頭の先に衝撃が走った。
膝はガクガクだ。
乗ってるのか飛んでるのかもう分からない。
いや、飛んでいる!海の上を目の前の深い森に向かって飛んでいる!
猿や鳥たち、イグアナやナマケモノ、蝶々や木々、花たちまでもがこっちへ来いと手招きしている場所へ吸い込まれていく。
「ヒューーーーーーーッ!!!」
プルアウトして沖を振り返るとみんなが両手をあげて喜んでくれている。
そこには幻のようにキラキラ光る夕陽をバックに私をここまで連れて来てくれた全ての人々の笑顔が映し出されていた。
もう言葉が出てこない。
海の中なのに汗びっしょりになっている。
大きく手を振って岸へと戻ると極度の緊張から解き放たれた瞬間がそこにあった。
このライドを喜んでくれていたのは海の上のサーファー達だけではなかった。
この波を見つめながら木の幹に座っていた他のローカルサーファー達も一緒に喜んでくれていたのだ!
「私達ビジターを受け入れてくれてありがとう!こんなに素晴らしい波に乗れて本当に幸せだよ!」
「ところで、君達は乗らないのかい?」
「今日はもういい。お前達が目指してきたものを見れて俺達も幸せだったよ!」
「この世界一美しい場所に長い時間苦労を重ねて辿り着いて、精一杯の気持ちを込めて乗ってる奴の邪魔はしない、それが俺達の流儀さ」
「おめでとう!波は明日もあるさ!」
「俺達はお前達を歓迎してるんだ。思いっきりフルーツや木の実も楽しんでくれ!動物たちとも仲良くな!」
「この場所を目指してくれるなんて俺達も最高さ!こちらこそありがとう!」
こんなにも大きな心に触れ、涙腺が限界を超えた。
溢れ出るそれを抑えるのはもう無理だ。
PURA VIDA
マタパロを飛ぶCREW達。
Definitivamente regresare!
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